Topics 2002年11月11日〜20日
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12日 グリーンスパン議長の証言に注目
13日 グリーンスパン議長の議会証言
14日(1) グリーンスパン議長の議会証言(その2)
14日(2) 確定給付年金の危機
15日(1) 年金改革は議論されるのか?
15日(2) Compaq→HP→WorldCom
19日 アメリカ企業の教育ベネフィット
12日 グリーンスパン議長の証言に注目 Source : Greenspan may explain rate move (Reuters)
11月6日のFRBの基準金利ならびに銀行貸し出し金利の切り下げは、かなり大きなショックを与えているようだ。上記Sourceは、金融関係者の驚きを伝えるとともに、明日13日(水)に、グリーンスパン議長が議会証言を行うので注目したい、という記事となっている。
Topics 11月8日「Federal Fund Rateの切り下げとProductivity」で記したように、実体経済を表す経済指標から見ると、これほど極端な切り下げをしなければならないような状況とは見えない。プレス・リリースでも、最近のいくつかの経済指標が悪いことと、対イラク関係を指摘しているのみで、歴史的にも稀な低水準にまで下げなければならない理由は見当たらない。
そうしてみると、FOMCには、アメリカ経済全体で起きている問題ではなく、FOMCのみが知り得る情報に基づいて、今回の切り下げを決定したのではないかと推測される。それは何か。考えられるのは、金融機関の経営状況の悪化である。昨年末からの不正経理による大企業の倒産、南米の経済危機その他の理由により、大手の金融機関の経営状況が厳しくなっているのではないだろうか。そう考えると、今回の切り下げの狙いは、Federal Fund Rateではなく、連銀の銀行貸し出し金利の切り下げにあったと言える。厳しい経営を迫られている銀行に、史上最低の金利で融資することにより、金融システムの安定を図る。そんな狙いがあったのではないかと考えれば、少しは納得できる。
ニューヨーク、ボストンの金融機関の仲間内では、バブルがはじけて、金融機関に不良債権が累増しているとの噂があるらしい。さらに、Washington Post紙で、「Bubbles : The Roots of the 90's Boom and Bust」という特集連載記事(6回)が、この10日に始まった(しかも毎回1面)のも、決して偶然ではないのではないか。
もし、このようなシナリオが当たっているとしたら、当面、対イラク戦争などやっている場合ではないかもしれない。なにせ、日米という世界の2大経済地域が不良債権を抱えてデフレに苦しむという状況は、世界経済に深刻な影響をもたらすことになるからだ。
とにかく、まずは明日のグリーンスパン議長の証言を注目することとしたい。
13日 グリーンスパン議長の議会証言 Source : Testimony of Chairman Alan Greenspan (FRB)
注目のグリーンスパン議長の議会証言は、特に目新しいものはなし、との評価だ。なぜ市場最低の水準まで貸し出し金利を下げる必要があったのかについての理由説明はなかった。もっとも、グリーンスパン議長が、大手の金融機関の経営状況が厳しくなっているから、と発言しようものなら、金融市場は一気に.
メルトダウンしかねない。
12日、グリーンスパン議長は、アメリカ経済について明るい見通しを持っていると発言し、これに好感を持った株式市場は上昇した。こういうのを口先介入という。明るい見通しをもっているのなら、なぜ、自らの手足を縛ることになりかねないようなリスクを冒してまで、金利を下げなければならなかったのか。まだまだ私には得心がいかない。
14日(1) グリーンスパン議長の議会証言(その2) Source : Greenspan Throws Damper On Permanent Tax-Cut Plan (Washington Post)
14日付のWashington Post紙に、グリーンスパン議長の議会証言に関して、議場での質疑応答についての報道が掲載された。前日のTopicsで書いたように、グリーンスパン議長のステートメントには、FRBの銀行向け貸し出し金利引下げの理由は載っていなかったが、議場では、このように述べている。
つまり、「万一の場合の保険だ」という訳だ。こんな理由で、市場最低水準の説明になるだろうか。釈然としないなあ。
14日(2) 確定給付年金の危機 Source : America's Pension Crisis (Plansponsor.com)
アメリカが、確定給付年金に悲鳴をあげている。株式市場の低迷と史上稀に見る低金利(Topics 11月8日 「Federal Fund Rateの切り下げとProductivity」参照)のおかげで、資産の目減りと負債の増加が著しいためだ。
上記Sourceのポイントをまとめると、次のようになる。
- 2000年までは、確定年金制度は、企業の収益に貢献してきた。GEやIBMでは、少なくとも税引前利益の10%以上は、年金資産からの稼ぎであった。ところが、2002年7月のMorgan Stanleyの分析によれば、Standard & Poor'sの500社の収益は、2000年5.3%、2001年7.2%の水増しになっている。これは、確定給付年金資産の収益見込み率が高すぎたためである。
- Merrill Lynchの調査によれば、S&P 500社の確定給付年金の平均像は、2001年末で5億ドルの積立超過であったのが、2002年末には3.23億ドルの積立不足に転落するという。
- このように、短期間で積立超過から積立不足に大きく転落する理由として、ALMの期間対応ができていないことが挙げられる。年金債務は、債券のように、長期で管理する必要があるのに対して、アメリカの確定給付年金の資産は、株式に偏っていたためだ。
- 州政府職員や連邦政府職員のための年金制度も、企業年金と同様の問題を抱えている。
- このような危機的事態に対して、対応する方法が2通りある。一つは、年金給付額を削減することである。ただし、従業員の反感を買い、労働組合が結成される可能性もある。もう一つは、積立不足額を支払うことである。これは、企業の収益を減少させ、株主の利益を削ることにつながる。公的機関の年金の場合は、税金に頼るしかない。
- 確定給付年金は、企業の財務関係者から、ますます嫌われることになる。確定給付にしても、確定拠出にしても、ベネフィットは縮小せざるを得ない。そうしなければ、経済全体のお荷物になってしまう。
- しかし、年金給付の見直しは、言うは易し、行うは難し、である。EBRIのSalisbury所長は、「現在、確定給付が抱えているような問題を解決するために、ハイブリッド・プラン(例えばキャッシュ・バランス)への移行も多くなるだろうが、同時に、一時金での受取も増えている。雇用関係の社会的意味合いが変化しつつある。企業側は、長期にわたって良好な雇用関係を保つことから、企業とともに一生を過ごさない従業員を重視する傾向に移りつつある。また、企業幹部は、所得の代替システム(年金)から、(従業員の退職後の生活のための)資産形成と従業員によるコントロールがきくシステムへの転換を望んでいる。それらの結果、確定給付対確定拠出という議論の構造は意味をなさなくなってきており、『一時金受取』対『年金受取』の比較考量が必要となっている」と述べている。
15日(1) 年金改革は議論されるのか? Source : Action on Social Security Debated (Washington Post)
中間選挙の共和党勝利を受けて、公的年金の改革論議(個人勘定の創設)を2003年の最優先課題とするかどうか、関係者の間で考え方が分かれているらしい。
Topics 11月7日「(1) 中間選挙結果(その2)」で記したように、共和党議員の間では、Social Security改革は、第108議会の優先的政治課題に入っていない。
ところが、今回の中間選挙の結果を見て、共和党超保守派議員、関係団体(Catoなど)、ホワイト・ハウスのスタッフは、国民は変化を求めていると判断し、年金改革を断行すべきとの考えに傾いているらしい。ホワイト・ハウスの経済顧問、政治顧問は、揃って早急な立法化に動くべきとしており、その先頭に立っているのが、Senior AdviserのKarl Roveという。
彼らにしてみれば、大統領選挙の時から、公的年金改革を最優先の政治課題として掲げ、大統領選、中間選挙と連勝したわけだから、国民の信任を得た、と判断するのだろう。また、2003年に議論が行われて立法化まで進まなければ、2004年の大統領選挙で、再び争点にせざるを得ない。その時の経済状況如何によっては、大変リスクの高い賭けとなる可能性がある。従って、リスキーな政治課題はなるべく早く済ませておきたいというところだろう。
しかし、ベテランの共和党議員達は、早急な年金改革論議には消極的だ。経済状況、財政赤字、株式市場、企業不正などが重なっており、タイミングが悪いという判断だ。特に、財政赤字は年金改革に深刻な影響を与えるため、クリントン時代の年金改革論議よりも、さらにタイミングが悪い、と判断されている。
確かに、共和党は、中間選挙で議席を伸ばしたが、その際、国内問題としてホワイト・ハウスが掲げたのは、処方薬(Topics 10月21日「(2) 処方薬の処方箋」参照)と企業年金(Topics 10月20日「401(k) なくなった改革ポイント」参照)であったはずで、公的年金については、ほとんど主張らしい主張はしていない。
勝った後で、以前の主張を引き出してきて、国民の信頼を得たと判断するのはちょっとやりすぎではないか。実際、中間選挙の洗礼を受けてきた議員達は、そんなに簡単に年金改革論議には乗れない。選挙期間中に、何度も踏絵を踏まされているからだ。
公的年金改革の議論が2003年に行われるかどうか、それを占うキーマンは、Bush大統領とJudd Gregg上院議員(第108議会で上院HELP委員長に就任予定。Topics 「11月7日(1) 中間選挙結果(その2)」参照。)だ。
Bush大統領は、中間選挙後の記者会見で、年金改革は重要な政治課題であると述べているものの、いつものように、頑なに押し通すという姿勢は見せていない。揺れているという感じである。一方のGregg上院議員は、この世界のベテランだけに、慎重な見方をしており、共和党議員達の雰囲気を充分に汲み取っているという感じだ。Bush大統領も、その辺の機微がわからないことはないだろう。
EBRIのSalisbury所長は、最近、公的年金改革の議論が進むのかとの質問に対し、『2020年まで議論が続くであろう』と発言している。2001年のCSSSで、年金資産が底をつくのが2038年と推測されていた。その後の金利の低下、経済成長の鈍化を考慮に入れれば、このX dayは、多少早まり、2030年頃となろう。つまり、Salisbury所長は、公的年金制度の経済的破綻が目前にならない限り、具体的な議論は始まらないだろうと予測しているのだ。
確かに、September 11、Enronの破綻以降、公的年金改革議論はmomentumを失っているように見える。それを中間選挙結果を梃子に、再び議論を起こし、立法化まで持っていこうとするのかどうか。Bush政権の正面突破の手法は、外交では通用しても、内政、特に公的年金という微妙な問題に通用するのかどうか。
15日(2) Compaq→HP→WorldCom Source : Michael D. Capellas Named Chairman And CEO Of WorldCom, Inc. (WorldCom)
今日、M. Capellas氏がWorldComの新Chairman & CEOに正式に任命された。午前11時(アメリカ東部時間)から、NYで、M. Capellas氏が記者会見を行うということだ。
このTopicsでも、HP-Compaqの合併問題(Topics 「2月27日 1%の株主達」、「3月11日(2) Pension Fundの投資行動」、「5月1日 HP-Compaq」、)、WorldComの再建手続き(Topics 「6月29日 Lay-offの風景 WorldComの場合
」、「7月29日 Lay-offの風景 WorldComの場合」、「9月10日(2) WorldComの離職手当(2)」、「10月22日 WorldComの引き止めボーナス」、「10月30日 WorldComの引き止めボーナス(その2)
」)について、記述してきたので、一応記録しておくこととした。
19日 アメリカ企業の教育ベネフィット Source : 「アメリカ企業の教育ベネフィット」 (PDF)
考察・コメントのコーナーに、新しく掲載しました。要旨は次の通りです。
アメリカ企業では、転職、解雇が頻繁に行われていると言われている。また、短期の収益、株価の動向を重視するとも言われている。しかしながら、直接的に利益とは結び付かない一般的な知識、技術を習得させるためのOff the Job Educationも盛んに行われている。中でも、従業員が大学等の高等教育機関における教育を受ける場合、多くの企業が、その授業料や教材費の全部または一部を企業が負担するという「教育ベネフィット」を提供している。
企業がこうした教育ベネフィットを提供する理由として、従業員の資質の向上、企業の競争力の維持などが挙げられるが、それだけでは、説明不足である。なぜなら、既に高等教育を受けた労働者を採用すれば済むからである。
重要な説明要因は、そうした教育ベネフィットを企業が用意することにより、平均以上の資質、能力を持った労働者をスクリーニングできること、さらには、企業の転職率を抑制することができることである。
従業員に対する教育を提供する高等教育機関として重視されているのが、コミュニティ・カレッジである。コミュニティ・カレッジは、授業料を4年制大学に較べて4分の1程度に抑え、地元企業との連携により、具体的かつ実践的なプログラムを用意している。
アメリカは、1世紀をかけて、コミュニティ・カレッジの充実を図ってきた。そのおかげで、アメリカ国民は生涯学習を実践でき、企業は従業員教育にコミュニティ・カレッジを利用することができている。また、再就職を目指す労働者にとっては、次の職場に必要な知識、技術を安いコストで取得できる場となっている。コミュニティ・カレッジは、アメリカの労働市場の柔軟性を支える重要なインフラとして位置付けられる。
多くの日本企業にとっても、教育ベネフィットを提供し、資質、能力の高い従業員を採用、維持していくことが、これまで以上に重要となってくる。また、アメリカと同様の教育インフラを提供していくためには、地方に設立された国立大学を自治体主導の運営に切り替え、一般成人にも門戸を開放するとともに、地元で活動する企業との連携を深め、実践的な教育プログラムを提供していくことが重要であろう。
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